デジタイズとは、紙の地図上のフィーチャをデジタル形式に変換する処理です。地図をデジタイズするには、コンピュータに接続されたデジタイジング タブレット(デジタイザとも呼びます)を使用して、目的のフィーチャをトレースします。これらのフィーチャの X、Y 座標が自動的に記録され、空間データとして格納されます。
デジタイジング タブレットによるデジタイズでは、フリーハンドでの画面によるデジタイズとは別に、空間データを作成および収集する手段が用意されています。ほぼすべての紙の地図のフィーチャをデジタル フィーチャに変換することができます。デジタイザを ArcMap の編集ツールと組み合わせて使用すれば、新しいフィーチャを作成したり、デジタル マップ上の既存のフィーチャを編集したりできます。
フィーチャを新しいレイヤにデジタイズし、このレイヤを既存のマップ ドキュメントに追加したり、デジタル データがまったく存在しない場所に新しいレイヤ セットを作成したりできます。また、デジタイザを使用して、デジタル マップ上の既存のレイヤを更新することも可能です。
このトピックでは、デジタイズする地図を準備するワークフローについて説明します。
ステップ 1: デジタイジング タブレットのセットアップとドライバ ソフトウェアのインストール
ArcMap でデジタイジング タブレットを使用するには、WinTab 対応のデジタイザ ドライバ ソフトウェアが必要です。使用しているデジタイザ用の WinTab 準拠ドライバが入手可能かどうかを調べるには、タブレットに付属のマニュアルを参照するか、製造元に問い合わせてください。
デジタイザをインストールする前に ArcGIS をインストールすると、[編集オプション] ダイアログ ボックスに [デジタイザ] タブが表示されない場合があります。このタブを追加するには、ArcGIS ESRIRegAsm.exe ユーティリティを使用して、digitizer.dll ファイルを登録する必要があります。以下の手順を実行するには管理者権限が必要です。
- 開いている ArcGIS アプリケーションをすべて閉じます。
- DOS コマンド プロンプトを起動します。通常は、[スタート] → [プログラム](または [すべてのプログラム])→ [アクセサリ] の順にクリックして起動します。
- [コマンド プロンプト] ウィンドウで、「cd」、スペース、ESRIRegAsm.exe ユーティリティのあるディレクトリへのパス(C:\Program Files (x86)\Common Files\ArcGIS\bin)の順に入力します。これにより、コマンド プロンプトのアクティブ ディレクトリが、ESRIRegAsm.exe ユーティリティのインストール ディレクトリに変わります。
- Enter キーを押します。
- 「ESRIRegAsm.exe」、スペース、二重引用符、ArcGIS インストール ディレクトリにある DLL ファイルへのフルパス、二重引用符の順に入力します。デフォルトのパスは、C:\Program Files (x86)\ArcGIS\Desktop10.2\bin\digitizer.dll です。ArcGIS を別のディレクトリにインストールしている場合は、そのパスに置き換えてください。
- Enter キーを押します。
- 登録に成功したら、[コマンド プロンプト] ウィンドウを閉じます。ArcMap を再起動すると、[編集オプション] ダイアログ ボックスに [デジタイザ] タブが表示されます。
Windows 7 64 ビットのコンピュータで ArcGIS をデフォルトの場所にインストールしている場合、[コマンド プロンプト] ウィンドウは次のようになります。入力する必要のあるテキストは太字で表示されています。
Microsoft Windows [Version 6.1.7600]
Copyright (c) 2009 Microsoft Corporation. All rights reserved.
C:\Users\username>cd C:\Program Files (x86)\Common Files\ArcGIS\binC:\Program Files (x86)\Common Files\ArcGIS\bin>ESRIRegAsm.exe "C:\Program Files(x86)\ArcGIS\Desktop10.2.1\bin\digitizer.dll"
ステップ 2: デジタイザ パックのボタンの設定
ドライバ ソフトウェアをインストールしたら、WinTab マネージャ セットアップ プログラムを使用して、デジタイザ パックのボタンを設定します(セットアップ プログラムを使用する前に、デジタイザの電源を入れてコンピュータを再起動する必要があります)。1 つのパック ボタンを、マウスの左ボタンのシングルクリックにより、ポイント フィーチャと頂点をデジタイズするために設定します。また、別のパック ボタンを、マウスの左ボタンのダブルクリックにより、ラインまたはポリゴン フィーチャのデジタイズを終了するために設定します。また、ボタンに右クリック動作を割り付け、ショートカット メニューを表示するように設定することもできます。
どの開発用プログラミング言語を使用しても、特定の ArcMap コマンドを実行するように別のボタンを設定できます。
ステップ 3: 紙地図の品質の確認
紙地図は、平らで、破れたり折りたたまれたりしていない、最新の信頼できるものであることが理想です。紙は天候によって伸びたり縮んだりします。デジタイジングの際の歪みを最小限に抑えるために、紙地図をマイラー紙などのより安定した材質にコピーすることもよくあります。
ステップ 4: 紙地図上のコントロール ポイントの設定
紙の地図からのデジタイズを開始する前に、コントロール ポイントを設定する必要があります。コントロール ポイントは、後で地図を ArcMap の地理空間に登録するときに使用します。地図にグリッドや既知の地表ポイントが記されている場合は、それらをコントロール ポイントとして使用することができます。それらが記されていない場合は、道路の交差点などの明確に区別できる位置を 4 ~ 10 個選び、地図上に鉛筆で印を付けます。個々の位置に一意な番号を割り当て、実際の地表座標を書き留めます。
適切に配置されたコントロール ポイントを少なくとも 4 つ特定したら、地図をタブレットの上に置き、跡が残らない特殊なパテ、マスキング テープ、または製図用テープを使用して、地図を固定します。製図用テープはマスキング テープに似ていますが、はがしても跡が残りにくいという特徴があります。タブレット上で地図の位置を正確に合わせる必要はありません。ArcMap では、地図を登録する際の位置のずれを自動的に調節し、そのような調節が行われた場合はエラー レポートで報告します。
ステップ 5: 紙地図の登録
コントロール ポイントを特定したら、実世界の座標系に紙の地図を登録します。これにより、フィーチャを地理空間に直接デジタイズすることができます。
地図の登録では、コントロール ポイントの地表座標が記録されます。これらは [編集オプション] ダイアログ ボックスの [デジタイザ] タブを使って記録されます。
地表座標を入力すると、ArcMap にエラー レポートが表示されます。エラー レポートには、ポイントごとのエラーと RMS エラー(平均二乗偏差)という 2 つのエラーの計算値が含まれています。ポイントごとのエラーは、個々の入力コントロール ポイントを変換したものと、対応するポイントのマップ座標との距離のずれを表しています。RMS エラーは、これらのずれの平均です。
ポイントごとのエラーは、現在のマップ単位で報告されます。RMS エラーは、現在のマップ単位とデジタイザ単位(インチ)の両方で報告されます。RMS エラーが大きすぎる場合には、適切なコントロール ポイントを再登録することができます。高精度のデータを維持するには、RMS エラーを 0.004 デジタイザ単位(通常はインチ)未満またはマップ単位(座標系が格納される地表単位)での同等の縮尺距離未満に抑える必要があります。それほどの精度を必要としないデータの場合は、0.008 デジタイザ単位程度でもかまいません。
ステップ 6: 正しい投影法の設定
紙の地図の座標系(投影法)がわかっている場合は、デジタイズ先のレイヤにも同じ投影法を設定する必要があります。フィーチャを既存のフィーチャ レイヤにデジタイズする場合は、紙の地図とデジタル レイヤの座標系が同じであることを必ず確認してください。
ステップ 7: デジタイズ モードの有効化とデジタイズの開始
フィーチャをデジタイズするには、デジタイズ モードを有効化して、フィーチャを作成する必要があります。
デジタイジング タブレットは、一般に、デジタイズ(絶対)モードとマウス(相対)モードという 2 つのモードで動作します。デジタイズ モードで実行できるのは、フィーチャのデジタイズのみです。スクリーン ポインタは描画領域にロックされているため、ArcMap ユーザ インタフェースのボタン、メニュー コマンド、またはツールを選択することはできません。一方、マウス モードでは、スクリーン ポインタの位置とデジタイジング タブレットとの間に関係はありません。デジタイズの際には、[編集オプション] ダイアログ ボックスを使用して、デジタイズ モードとマウス モードを切り替えることができます。これにより、マウスの代わりにデジタイザ パックを使用してフィーチャをデジタイズしたり、ユーザ インタフェースの項目にアクセスしたりできます。また、デジタイザがマウス モードとデジタイズ モードのどちらであっても、マウスを使ってユーザ インタフェース要素を選択することができます。
紙の地図上のフィーチャは、ポイント モード デジタイジングとストリーム モード デジタイジング(ストリーミング)という 2 つの方法でデジタイズできます。デジタイズの際には、F8 キーを押して、2 つのモードを交互に切り替えることができます。
デジタイジング セッションを開始したときのデフォルトのモードはポイント モードです。ポイント モード デジタイジングでは、一連の正確なポイントまたは頂点をデジタイズすることによって、紙の地図上のフィーチャを変換します。ArcMap は、複数の頂点を接続して、デジタル フィーチャを作成します。ポイント モード デジタイジングは、作図ツールによるスクリーン デジタイジングと同じことをデジタイザで行います。唯一の違いは、デジタイザでは、マウスの代わりにデジタイザ パックを使用して、紙の地図からフィーチャを変換することです。
ストリーミングを行うと、マップ内を移動しているときに ArcMap がある間隔で自動的に頂点を追加します。ストリーミングによって、河川などの曲線を作成したい場合があります。ストリーミング(ストリーム モード デジタイジング)は一般にデジタイジング タブレットで使用されますが、単純にマウスで使用することもできます。
ストリーム モードでデジタイズを開始するには、フィーチャの作成中に右クリックして、[ストリーミング] をクリックします。F8 キーを押しても、ストリーム モードに入ることができます。マップをクリックすると、ストリーミングが一時停止します。これにより、ボタン、メニュー、その他のユーザ インタフェース エレメントをクリックできます。ストリーミングを一時停止すると、右クリックしてショートカット メニューにアクセスできるため、[XY 値の入力] や [相対 X, Y] などの他のメニュー コマンドを使用して頂点を配置できます。ストリーミングを再開するには、マップを再度クリックします。ストリーム モードを完全に終了するには、右クリックして [ストリーミング] をクリックするか、F8 キーを押します。