北米でほぼ例外なく使用されている水平測地基準系には、NAD 1927 と NAD 1983 の 2 つがあります。
NAD 1927
NAD 1927 では、地球の形状を表現するのに、Clarke 1866 回転楕円体を使用しています。この測地基準の原点は、カンザスの Meades Ranch という地球上のポイントです。1800 年代の観測値から多くの NAD 1927 基準点が計算されました。これらの計算は手作業で、複数のセクションで長年に渡って行われました。したがって、誤差は州によって異なります。
NAD 1983
電子セオドライト、GPS (グローバル ポジショニング システム) 衛星、VLBI (超長基線電波干渉法)、ドップラー システムなど、測量や測地学における多くの技術革新によって、既存の基準点網の弱点が明らかになってきました。既存の基準点を新しく確立された測量値に当てはめたときに、著しい違いが生じたのです。新しい測地基準を設定することにより、1 つの測地基準で北米と周辺地域を全体的にカバーすることが可能になりました。
1983 年北米測地基準 (NAD 1983) は、測地基準系 (GRS) 1980 回転楕円体を使用し、地上と衛星の両方の観測値を基準にしています。この測地基準系の原点は、地球の重心です。これにより、地表位置の緯度と経度の値がすべて影響を受け、北米の従来の基準点の位置が NAD 1927 と比較して最大で 500 フィート修正されました。各国間での 10 年間にわたる取り組みの結果、米国、カナダ、メキシコ、グリーンランド、中米、およびカリブ諸国の基準点網が結合されました。
GRS 1980 回転楕円体は、World Geodetic System (WGS) 1984 回転楕円体とほとんど同じです。WGS 1984 および NAD 1983 座標系は、共に地球を中心にしています。1986 年の公開当初、NAD 1983 と WGS 1984 は一致するものと見なされていました。これは現在では当てはまりません。WGS 1984 は国際地球基準座標系 (ITRF) に結合されています。NAD 1983 は、年月の経過に伴う座標値の変化を最小限にするために、北米構造プレートに結合されています。これにより、NAD 1983 と WGS 1984 に差異が生じてきました。一般に、WGS 1984 と NAD 1983 の座標は約 1 ~ 2 メートル離れています。GPS データは実際には WGS 1984 座標系で報告されます。ただし、たとえば Continuously Operating Reference Stations (CORS) サービスなど、いずれかのタイプの外部制御ネットワークが使用されている場合、GPS 座標は WGS 1984 ではなくその座標系を基準とします。
HARN または HPGN
NAD 1983 測地基準が開発された当時は普及していなかった最新の測量技術を使用して、NAD 1983 測地基準をより精度の高いレベルに再調整する作業が州レベルで行われています。このプロジェクトは、High Accuracy Reference Network (HARN) と呼ばれており (以前は High Precision Geodetic Network (HPGN) と呼ばれていた)、National Geodetic Survey (NGS) と個々の州との共同プロジェクトです。
現在では、アラスカを除くすべての州の再調査が行われ、49 州と 5 地域の変換グリッド ファイルが公開されています。調整済みの基準点には、National Geodetic Survey データベース内で NAD83 (19xx) または NAD83 (20xx) というラベルが付けられています (ここで、xx は調整年度を表す)。一部のポイントの調整は複数回行われているため、年度は最初の HARN による再調整とは異なる場合があります。最初の HARN による再調整とその後の再調整の間の変換は、NGS によってリリースされていません。
NAD 1983 に対するその他の再調整
NGS は CORS 局の基準網を維持しています。この基準点のセットには NAD 1983 (CORS96) というラベルが付いており、これらの点は変換によって ITRF に結合されます。その他の測地基準点には、調整年度のラベルが付いています。最近、NGS は全国的な再調整を実施しました。CORS 局を除く既存の基準点はすべて更新され、現在では NAD 1983 (NSRS2007) というラベルが付いています。この再調整の正式名は National Spatial Reference System (NSRS) of 2007 です。米国の大部分の地域で HARN 座標と NSRS2007 の間に数センチメートルのずれがあります。このため、NAD 1983 (NSRS2007) とそれ以前に実用化された NAD 1983 の間では、標準化された変換の計算および公開は行われていません。詳細は、NGS Web サイトに記載されています。
その他のアメリカの測地基準系
アラスカ、ハワイ、米領サモア、グアム島、プエルトリコ、バージン諸島、および一部のアラスカ諸島では、NAD 1927 以外にも別の測地基準系を使用しています。新しいデータは、NAD 1983 またはその再調整のいずれかを基準としています。
カナダ
カナダでは、NAD 1983 が採用される前に、再調整が何度も実施されました。NAD 1927 DEF 1976 (一般に MAY76 と呼ばれる) という国家規模の調整の他に、ケベック州を対象とした地域的な調整 NAD 1927 CGQ77 も実施されました。沿岸の州では別の調整が行われ、Average Terrestrial System of 1977 (ATS 1977) が定義されました。1980 年代に、カナダは米国との共同で NAD 1983 を制定しました。それ以降、カナダでは基準点網を再調整し、その基準系は現在 NAD 1983 (CSRS) と呼ばれています。CSRS は Canadian Spatial Reference System の略です。Demystifying Reference Systems(Don Junkins および Gordon Garrard 著) は、詳細を説明した貴重な資料です。