ジオプロセシングは、ArcGIS を使用するすべてのユーザーのためにあります。ArcGIS の経験の有無にかかわらず、ジオプロセシングは ArcGIS での日々の作業に欠かせない部分です。ジオプロセシングの基本的な目的は、分析を実行したり地理データを管理したりするためのツールとフレームワークを提供することです。ジオプロセシングが提供するモデリングおよび分析機能によって、ArcGIS は完全な地理情報システムとなっています。
ジオプロセシングは、簡単なバッファーやポリゴンのオーバーレイから、複雑な回帰分析や画像分類まで、さまざまな GIS タスクを実行するためのツールを多数提供します。自動化するタスクの種類としては、データをある形式から別の形式に変換するといった日常的なものもあれば、 輸送ネットワークの最適ルートを計算する、山火事の延焼パスを予測する、事件現場のパターンを解析/検索する、土砂崩れが発生しやすい地域を予測する、暴風雨による洪水の影響を予測するなど、一連の操作に基づいて複雑な空間リレーションシップをモデリング/解析するといった、きわめて創造的なものもあります。
ジオプロセシングは、データ変換のフレームワークに基づいています。一般的なジオプロセシング ツールは、ArcGIS データセット (フィーチャクラス、ラスター、テーブルなど) を操作し、ツールの結果として新しいデータセットを生成します。それぞれのジオプロセシング ツールは、地理データに対して小さな処理ですが重要な処理を実行します。
ジオプロセシングでは、以下の例のように、あるツールの出力を別のツールの入力として、一連のツールを 1 つに連結できます。この機能を使用して、各自の作業を自動化し、複雑な問題を解決するのに役立つジオプロセシング モデル (ツール シーケンス) をいくつでも構成することができます。自分のワークフローを簡単に共有できるジオプロセシング パッケージにパッケージ化することで、他のユーザーと作業を共有することができます。また、自分のジオプロセシング ワークフローから Web サービスを作成することもできます。
自動データ管理タスク: 投影変換およびクリップ
次のワークフローの例では、[投影変換 (Project)] と [クリップ (Clip)] の 2 つのジオプロセシング ツールを使用します。これは、ジオプロセシングを使って自動化できる無数のタスクの一例にすぎません。
たとえば、同僚から 20 個のシェープファイルを受け取っており、それらのマップ投影が異なっていて、調査地域の外側に多くのフィーチャが含まれているとしましょう。ここでのタスクは、20 個のデータセットのマップ投影を変更し、無関係なフィーチャを削除し (データセットの「クリップ」)、それらすべてをファイル ジオデータベースに配置することです。
このタスクを実行するための最も簡単な方法は、ジオプロセシングを使用することです。最初に、[投影変換 (Project)] ツールを使用して、入力フィーチャクラスに新しい投影を適用し、出力フィーチャクラスを作成します。以下の図は、[投影変換 (Project)] ダイアログ ボックスと、入力フィーチャ (上部の左側)、投影変換されたフィーチャ (上部の右側) を示しています。投影座標系はアルベルス正積円錐図法です。
次の手順は、[クリップ (Clip)] ジオプロセシング ツールを使用して、調査領域の外側にあるデータをクリップすることです。[クリップ (Clip)] ジオプロセシング ツールは、任意のタイプ (ポイント、ポリライン、ポリゴン) のフィーチャクラスとポリゴン フィーチャクラス (クリップ フィーチャクラス) の 2 つの入力を受け取り、クリップ ポリゴンの内側にあるフィーチャだけで構成された新しいフィーチャクラスを作成します。
[投影変換 (Project)] ツールと [クリップ (Clip)] ツールはバッチ モードで使用することができます。これにより、20 個のフィーチャクラスのリストを入力して指定すると、それらのフィーチャクラスごとにツールが自動的に実行されるようになります。そのためのリストを作成するには、カタログ ウィンドウからジオプロセシング ツールのダイアログ ボックスへフィーチャクラスをドラッグします。
また、[投影変換 (Project)] ツールと [クリップ (Clip)] ツールを連結して、[投影変換 (Project)] ツールの出力を [クリップ (Clip)] ツールの入力として渡すジオプロセシング モデルを簡単に作成して、そのモデルをバッチ モードで使用できます。作成したモデルは、そのジオプロセシング環境の新しいツールとなります。
モデリングおよび解析: 公園に適した場所の検索
空間解析は、GIS において最も興味深い側面の 1 つです。空間解析を使用して、ユーザーは多くの個別ソースからの情報を組み合わせて使用し、多種多様な高性能の空間演算子を適用して、新しい情報 (結果) を導き出せます。これらの空間処理はすべてジオプロセシング ツールの一部です。
たとえば、公園の単純な候補地選択を実行し、さらに評価の余地がある公園候補地のデータセットを生成する、少し複雑なジオプロセシングの使用例を見ていきます。候補地選択ロジックは、人口密集地域に近く、既存の公園に近くない場所を検索します。つまり、住民に近い場所に公園を作成したいが、公園を乱立させたくないというロジックになります。さらに、新しい公園を既存の公園から離れた場所に作成することよりも、人口密集地域の近くに作成することのほうが重要であると見なされます。先に述べたように、これはとても単純なロジックであり、さらに評価の余地がある候補地 (公園への転用が可能、土地が空いている、土地の品質など) を特定するだけです。
以下の図では、公園候補地マップにおいてより有力な地域が濃い色で、それほど有力でない地域が薄い色で示されています。グレーの地域は、既存の公園の場所を示しています。また、人口密度 (60%) のほうが影響力の強いファクターであることも示されています。つまり、候補地選択では、こちらのほうが公園までの距離 (40%) よりも影響力があります (これらのウェイトは完全に任意です)。
次のジオプロセシング モデルは、先のロジックを示しています。このモデルには 5 つの手順があり、それぞれ青の丸いラベルが付いています。
- 手順 1 では、人口の重心が含まれた入力ポイント フィーチャクラスから人口密度を計算し、各セルの人口密度が含まれたラスター データセットを出力します。
- 手順 2 では、既存の公園のラスターから公園までの距離を計算し、既存の公園までの距離が各セルの値として含まれたラスター データセットを出力します。
- 手順 3 では、Population Density (人口密度) ラスターを再分類し、手順 4 では、Distance to Parks (公園までの距離) ラスターを再分類します。これらの再分類プロセスは、両方とも生のセル値を 0 ~ 100 の値に変換します。再分類された値は、有用性を示します。0 は最も役立たないことを示し、100 は最も役立つことを示します。たとえば、既存の公園に近いセルには公園から離れているセルよりも低い得点が与えられ、人口密度の高いセルには人口密度の低いセルよりも高い得点が与えられます。
- 手順 5 では、2 つの再分類からの出力データを使い、[加重オーバーレイ (Weighted Overlay)] ツールにデータを入力しています。ここで、加重 (60 と 40) が適用されます。出力ラスター Potential Park Sites (公園候補地) には、上に示したように、適性を示す得点が含まれています。最も適性がある地域の出力セルには高い値が設定され、濃い色で表示されます。
候補地を選別するためのこの加重オーバーレイ手法は、コンピューターと GIS が導入された頃から使用されているものです。ジオプロセシングにより、加重オーバーレイが扱いやすくなります。たとえば、ウェイトを 60 と 40 から何か他のものに変更して、モデルを再び実行すると、ウェイトへの感度を判断するのに役立ちます。同様に、再分類値を変更することもできます。
ワークフローの共有
作成したジオプロセシング モデルとそのモデルが使用するデータは、ジオプロセシング パッケージを使って共有できます。作成したパッケージは、同僚に電子メールで送信したり、arcgis.com にアップロードして幅広い利用者に公開したりできます。また、自分のモデルから Web サービスを作成および公開し、ArcGIS Desktop、Explorer for ArcGIS、カスタム Web アプリなどの Web ベースのクライアントで利用することもできます。
独自ツールの開発
ModelBuilder または Python を使用して独自のツールを作成できます。作成したツールはカスタム ツールと呼ばれ、システム ツール (ArcGIS Desktop と一緒にインストールされるツール) と同様に、ジオプロセシングで欠かすことのできない要素となります。独自ツールは、[検索]、[カタログ]、または [ArcToolbox] ウィンドウから開いて実行したり、[ModelBuilder] および [Python] ウィンドウで使用したり、別のスクリプトから呼び出したり、ツールバー ボタンとして追加したりできます。